「ただいま…」

「おかえり。外寒かったやろ。こたつ入ってますぇ」

「あぁ…有難う…」



荷物を起きに自室に向かうなつきの背中に妙な違和を感じた静留は、
小首を傾げながらその姿を見ていた。




少しして部屋着に着替え終わったなつきが部屋から出てきたので
静留は先程の違和感の正体を本人に確かめてみる事にした。



「なぁ、なつき」

「んー?」



返事はあったものの、どうも心ここにあらずの様だ。



「何かあったん?」

「え!?…いや…別に」



そう言うとなつきはふぃっと静留から目を逸らした。



「…うちにも言えん事なん?」

「だ、だから何にも無いと…」

「嘘はあきまへん。なつきが嘘つく時、決まって目ぇ逸らすんはあんたの癖どす」

「…」



良く見てるな、となつきは内心驚いたが、自分にしか知らない静留の癖もあるのでお相子である。

ちらりと視線を静留に戻すと彼女は思った以上に寂しそうな顔をしていた。


本人はそれに気付いているのだろうか。





兎にも角にも、このままでは変な誤解を与えてしまう。



大体一緒に住んでいるのだ。
内緒でチョコなんか作ったってばれてしまうに決まっている。


なつきは諦めたように苦笑すると、少し頬を赤らめながらぽつりぽつり白状し始めた。



「…チョコ…なんだ、が」

「チョコ?あぁバレンタイン?」

「……流石だな。チョコしか言って無いのに」

「そらこの時期にチョコ言うたら…なぁ」

「…はは。ま、まぁな…で…あの…」

「あぁ、そうや。あんなバレンタインのチョコなんやけど」



なつきの言葉を遮るように静留が話し始める。



「今年は一緒に作ってみぃひん?」

「え?」



なつきにとっては予想もしていなかった台詞。



「最初はな、今年も予め作って14日に渡そ、思ったんやけど…どうせやったら当日二人で作らん?」

「…でも…私何も出来ないし…邪魔になるだけかも知れないぞ…?」

「そんな事あらしませんぇ?うちが作り方教えたるし、チョコ作りなんてほんま簡単やし。
 なつきにも美味しいの作れますよって」

「う〜ん…」

「それにうち、なつきと一緒に作りたいんやけど…」

「……そうか?……じゃぁやってみようかな」




そう答えたななつきの表情は先程までとは打って変わってとても明るいものだった。




「じゃあ決まりやね。おおきになつき」

「いや。私も楽しみだ」



二人の笑顔はどこまでも幸せそうだった。












(流石静留さん…)



翌日、嬉々と14日の予定を語るなつきの話を聞きながら、舞衣はそう思った。



(なつきを喜ばせる事に関しちゃほんと超天才だわ)



真相は静留に聞かなければ解らないが、多分舞衣の予想は間違いないだろう。



静留はなつきの悩みに気付いた。

だから気落ちさせない為にもあの様な提案をした。

しかもご丁寧に自分がしたいからという念の押し様。



(でもまぁ…幸せそうだからいっか)





「おい舞衣。聞いてるのか」

「あ、うん聞いてる聞いてる」

「ったく…でな…」



珍しく冗舌ななつきの話を聞きながら、
この様子だとなつき達の14日はとても楽しい一日になりそうだなと思った舞衣であった。









「おい聞いてるか?」

「あーはいはい」







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