「蓉子〜。今日店に来ない?聖が会いたがってるんだけど」

『嫌。何で一緒に住んでるのにお金払ってまで会いに行かなきゃならないのよ』

「いいじゃない。働いてる時の聖は一段と格好いいわよ〜?」

『いつもと変わらずセクハラ親父全開じゃないの。
  大体私が行かなくても他の子にチヤホヤされてるんでしょ?』

「あら。やきもち?」

『ち、違うわよ!何で私が…』

「あぁ。そう言えば最近No.2のなつきちゃんの人気が鰻登りなのよね〜。
  この分ならNo.1の座も近いかしら」

『…』

「そうなったら聖は悲しむでしょうね〜。開店してからずっとこの位置を譲らないでいたんだもの」

『……』

「ま、蓉子には関係無い話よね。じゃまた」






蓉子の返事も待たず、オーナーは受話器を置いた。

その表情はと言うと、断られたにも関わらず
新しい玩具を与えられた小さな子供の様に嬉々としていた。





「さてと…あっちは電話の必要無いわね」












「「「いらっしゃいませ〜」」」



今日も景気良く営業を開始したホストクラブ。

開店前に店の前で待つ客がいるのも最近では珍しい事では無かった。



「聖さ〜ん!なつきさ〜ん!ご指名入りま〜す」

「はいは〜い」

「…はい」



そしてその客の殆どが、ここの2大スター目当てである。

早い物勝ち、もはや争奪戦である。



「聖ちゃ〜ん。こっちこっちぃ〜♪」

「は〜い今行きますよ〜」

「なつきちゃんは今日何呑みたいかしら」

「え、あ〜…何でもいいです」



そうして今日も夜は更けて行った。












「「「いらっしゃいませ〜」」」



開店から大分時間の経った頃、入り口付近で接客していたスタッフ達から感嘆の息が一斉に漏れた。



「いらっしゃいませ、お客様」



オーナーも直々にとても華やかな笑顔でその客を出迎えた。



「…今晩は」

「聖をご指名で宜しいですか?」

「まだ何も言って無いじゃない」

「貴方が聖以外を指名する訳無いもの。それにしても、やっぱり来てくれたのね」

「……仕方なくよ、仕方なく。後の貴方が怖いから」

「はいはい、そーゆー事にしておくわ。聖さ〜んご指名入りま〜す」












以前、かの有名な学園で自らもそれに匹敵する程有名だった蓉子。

完璧なイメージを常に身に纏っていた彼女だが、
どうもオーナー・江利子には学生時代から振り回されてばかりだった。



「蓉子!?来てくれたの!?」

「江利子に無理矢理頼まれて仕方なくよ」

「それでも蓉子が来てくれて嬉しいよ。有難う」

「聖…」



そしてもう一人。

江利子同様、同じ薔薇の称号を分けた相手。


蓉子はその相手、聖に滅法弱かった。

惚れた弱みと言われればそれまでなのだが、やはり聖が喜んでくれるのは自分も嬉しいから。



「今日はゆっくりして行ってよ。明日は休みなんだしさ」




そんな事、そんな笑顔で言われたら帰るに帰れないじゃない。












それから30分くらいして。

再びどよめく店のの出入り口。



「“ごきげんよう”やったっけ?オーナーさん」



この若さでこれだけ完璧に着物を着こなす様は貫禄がある。



「ふふ。ごきげんよう。今日も素敵なお召し物ですね。今お席にご案内します」

「指名は」

「勿論、なつきで宜しかったですね」

「ふふ、お願いします」



この後、実は初対面になる蓉子と静留により大変な思いをする事になろうとは、
この時の聖となつきには知る由も無い。




…寧ろオーナー一人を除いては。




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言い訳。

この終わり方…確実に続きます。

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