「遅い…」 「まぁいつもの事やし気長に待ちましょ?」 良く晴れた休日。 春の麗らかな風が髪を揺らしていく。 本当に気持ちの良いこんな日は、恰好の行楽日和だと思う。 そう、待ち合わせしている人間が30分も遅れて来なければ。 「ごめーん、待たせた…よね?どう見ても」 「待ち合わせ時間は何時だったかしら?」 ぴし。 そんな音を立て、周りの空気が凍り付く。 「し…7時です」 「今何時?」 「…7時33分です」 それを言ったのが引き金になったかの様に、毎度お馴染みのお説教が始まった。 「もう本当に貴方って人はっ!遅れる時は連絡頂戴って何度も言ってるでしょう!?」 「ち、違う!今回はなつきちゃんがっ!」 「ちょっ!?私は何も…」 「なつきちゃんがお客の子に言い寄られてたから遅れちゃったんじゃないかっ!」 「おおお、おいっ!」 「…なつき。どういう事やか説明して貰おか?」 「えっ!?い、いやこれは…」 まさに泥沼。 このメンツで遊びに行く、そう、俗に言う“ダブルデート”は誰から見ても幸先が不安すぎるものだった。 ◆ 「明日?」 「そう。一緒行こ?」 事の発端は昨日の静留からの誘いだった。 「遊園地か…」 「たまたまさる筋からのご厚意で無料券貰ってな」 「ふーん。じゃあ久しぶりに行くか」 「ほんま?あぁ良かった。あ、それとな」 ほぼ同時刻。佐藤、水野宅。 「遊園地?」 「ええ。タダ券があるからどうかと思って」 「へぇ〜。蓉子からデートのお誘いとは珍しい」 「別に行きたくないならいいのよ。別の人誘うから」 「あ、ちょっと。冗談ですって。折角二人っきりのデートなんだもん。勿体ないったら…」 「あ、それなんだけど」 ◆ 「まさかあんたが一緒とはな…」 遊園地に向かう電車の中、なつきは眉間に皺を寄せ、わざとらしく大きな溜め息をついた。 「またまたぁ。ホントは嬉しいくせに」 「私があんたと一緒に遊ぶ事で何故喜べるのか、逆に聞きたいくらいですけど」 こんなきつい悪態ももう言われ慣れたと言うもの。 聖は全く気にする様子も見せず、かえって面白がっている様だった。 「…何笑ってるんですか」 「んー?いや、なつきちゃんは可愛いなぁと思って?」 「…っ!?」 こんな事、静留や蓉子が聞いたら何を言われるか解ったものじゃない。 そんな事を聖はさらりと言う。 「…誰にでもそんな事言ってるといつか痛い目見ますよ」 そう言い返したなつきの頬は若干赤らんでいる様に見えた。 これから向かう遊園地は、毎日満員の来場客で賑わう大人気の場所だ。 今日も休みとあって、そこに向かうと予想される乗客で車内は混雑を見せ始めていた。 『この先大きく右にカーブ致します。お立ちのお客様は手すりや吊革にお掴まり下さい』 ドアの前に立っている四人の側の吊革は少し高い所に位置し、それに掴まっているのは中々大変だ。 その上、満員に近い乗客のせいで上手く位置が取れない。 掴まらなくてもまぁいいか、とそれぞれが心に思った矢先、電車は大きなカーブに差し掛かった。 「きゃっ!」 思っていたより大きく揺れた電車。 よたりとバランスを崩しかける。 「っと。大丈夫?」 「「…っ!」」 「あ、堪忍…」 「あれ。こーゆー時は謝るんじゃ無いでしょ?」 「…ふふ。せやな。おおきに」 「いやいや。どういたしまして」 手が出かかって、けれど届かなかった距離が本当に恨めしい。 近くの手すりに掴まっていた為、よろけもせずにいれた自分がもどかしい。 こうして二人が“嫉妬”と言う名の炎をメラメラと燃やしている事に、当の本人達は気付く気配も無かった。 それから揺られる事一時間弱。 目的地の最寄り駅に電車は到着した。 やはり当初の予想通り、乗客は同じ駅で一斉に下車し、凄い賑わいをみせている。 「…凄い人だな…」 「そうやねぇ」 「この分だと入場券買うのも大変そうだなぁ。ホント蓉子さまさまだね」 「ほんまにおおきにな、蓉子さん」 「私も貰っただけだもの。お礼なんか言われたら恐縮しちゃうわ」 駅から歩いて数分で目的の遊園地に到着。 こちらも予想通り、券売所は長蛇の列だった。 そしてその隣には開園を待つ長い列。 「ねぇねぇ。みんなはジェットコースターとか平気?」 「うちは平気やけど」 聖の問いに答えた静留がちらりと隣を伺うと、僅かに顔をひきつらせているなつきがいた。 「あれ、なつきちゃんダメなの?」 「い、いや、そんな事は…」 「へぇ〜意外だなぁ。そっかそっか」 「おおおいっ!人の話を聞けっ!!」 「じゃあ乗るの?」 喜々としてそう訪ねる聖に負けじと返事をするなつきを見て、静留は呆れたようにため息をついた。 -------------------------------------------------- 言い訳。 後でまとめてします。 >>次へ