「どきよし…」
シズルはゆったりとローブに風をはらませて、北の荒野に降り立った。
その声は冷たく高圧的…。
アリカは聞かずとも判っていることを敢えて聞いた。
「ニナちゃんと赤ん坊をどうするおつもりなんですか?」
シズルは少し首を傾げるようにして俯き加減でそれを聞いていた。
やや間があって、再び視線をアリカに戻すと少し掠れた声で答える。
「あんたはんが知る必要は無いことどす」
言いながら、シズルは微かに踏み込んでアリカに誘いをかける。
アリカはその動きに反応してしまった。
ニナにぴったりと寄り添う位置からほんの少しだけ前に誘い出されてしまった。
その瞬間、一陣の風が起きた。
動いたのはシズルでもアリカでもない。
シズルが仕込んでいたもうひとりの伏兵。
峡谷の岩陰から現れたエアリーズの軍服を着た人物。
本当に風のようにアリカとニナの間に割って入り、見事にニナを攫って行った。
「ニナちゃん!」
その軍服の人物に、ニナは羽交い締めにされ身動きはおろか声を出すことも出来ない。
アリカの一瞬の隙をついたその速さ、ニナを完全に拘束するその力…。
エアリーズの野戦帽を深く冠り顔を見る事は出来ないが間違いなくオトメ。
「チエ先輩ですね?」
アリカは悔しそうに低い声で言った。
「……」
「さあ、どうですやろ…」
その人の代わりにシズルが答える。
「撤収しますえ」
シズルはふわりと浮き上がった…。
当然、その軍服の人物も一緒について行くはず…。
だがニナを押さえ込んだ軍服の人は動かない。
「フフフフフフフハハハハハハハハハハハハハアハアアアア」
マテリアライズしないで代わりに、その人はこれ以上無いくらいの高笑いをかました。
「シズルゥーーーあんたもヤキが回ったわねえ!」
目深に冠った野戦帽を勢いよく跳ね上げて現れたのは、
どこにこれを押し込んでいたのかと感心するくらいのゴージャスなブロンドのロングヘア。
シズルはあいた口が塞がらなかった。
かつてこの人物に出し抜かれたことなど一度も無かったから…。
放っておいても決して気付かれることはないと高を括っていた。
「アーミテージ少将」
アリカもその名を叫んだきりポカンとしてしまった。
「チエとユキノにはたーっぷりお仕置きしといたわ」
「あんたにもお仕置きしたいんだけどねえ」
「わたしより相応しい人が来てるから今日のところは譲っとく」
ハルカのその言葉はシズルを打ち据えた。
身動き出来ないほどに…。
いまのシズルを一番見て欲しくない人がこの場を見ている…。
そう思っただけでもう。
上昇することが出来ず、シズルは滑り落ちるように地表へと戻ってしまった。

シズルが後ろを取られることは滅多にない。
覚えているのはミユに遅れを取った一度だけ…。
しかし、いま後ろを取られた。
今日はよくよくダメな日らしい。
着地と同時に何者かに拘束された。
その人が誰だか髪の香りだけで判る。
シズルはその腕を振りほどくことなど出来はしない。
その細くしなやかな腕は絡み合ってシズルの喉を見事に極めてみせた。
「動くな!」







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感想は後で纏めてさせて頂きます。


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