ノックをしたまでは良かったが、中から静留の声が返ってきた途端、頭が真っ白になってしまった。


久しぶりに聞いた静留の声はあの頃聞いていたものと同じアルト。

耳に心地よく響く彼女のそれ。



早く中に入らなくてはと思うのに、色々な気持ちが巡り体が麻痺した様に動かない。



がら…



「どちら様でしょう」



もたもたしている内に、中の彼女は扉を開けて私の前に立った。


一瞬にして見開かれた深紅の瞳は驚きの色を隠せなかった様だ。



「………な、つき?」

「…久しぶりだな」



それだけ言うのがやっとだったが、静留は微かに微笑むと、中入り?と私を促してくれた。













「はい。お茶…」

「あぁ有難う」




目の前に置かれたお茶を少し口に含むと、懐かしい味がした。

あの頃は静留がうちに来てくれる度に、そうそれこそ当たり前の様に飲んでいたお茶だ。



「…美味い」

「おおきに」



本当に美味しいと思った。

確かにお茶に関しては無知だし、はっきり言ってどれもこれも同じ様な味しかしないけど。

今日のお茶は格別に美味いと思った。










少しの沈黙が何時間にも思える空気の中、その滞留した空気を打破したのは静留だった。




「それで…なつき…今日は?」

「……あぁ」



いきなり核心に迫った質問だなとは思ったが、彼女にも多分余裕が無かったのだろう。








静留はいつもどこか余裕綽々に見えて、完璧なイメージを纏っていた。

それが私の事となると、いきなりその余裕が崩れた様に戸惑いだす。




それが不思議に思った事もあった。

変な奴だな、と少し怪訝に思った事もあった。



しかしどこかで嬉しく思っていたのもまた事実で。



「…話があるんだ」



回りくどいのは私の性にも合わないのでかえって好都合だ。


私は今心に思っている事を包み隠さず話し始めた。


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