好きで好きでどうしようもなくて。

溢れる涙が止まる事はなくて。

独りぼっちの自分の部屋で“涙って枯れないのかな”とふと下らない事を考えた。




この雨はいつまで降り続くのだろう。

先程から降り出した温い雨は、止む気配が全くと言っていい程感じられない。

ただそれが、自分の涙とシンクロしているようで悲しかった。

この雨が止めば、今流れる涙も止んで傷さえ癒えていくのだろうか。

それなら早く。

ただただ神に祈った。




傘を貸すと言ったけれど、それを彼女は断った。

その時の笑顔が鮮明に浮かんで来ては心を抉り、そして消える。

その果ての無い無限ループにまんまとはまり、傷ついては涙を流し一向に抜け出せぬまま、ただただ想いだけが強くなる。

叶わぬ想いで深くなる傷がいつしか癒される事はあるのか。

今は信じる事など出来なかった。




泣き疲れてぼやけていく視界と気だるくなっていく身体に相反して、覚醒した頭は流れるように過去を脳裏に映す。

思い出は得てして美化されるとは解っていても、やはりあの頃は楽しかったんだと実感する。

無邪気に笑い合う事など出来なくても、それがたとえキツい台詞だったとしても
何も考えず気を使わずにじゃれ合えた日々は幸せだった。

今ならはっきりとそう言える。



(……ふ)



それに気が付いて自分の欲深さに苦笑が漏れた。

叶わぬ恋なのは重々承知の上だったのに。




彼女を好きになってからは無意識に目で追っていた。

時々目が合って笑いかけてくれる彼女の優しさが好きだった。

憎まれ口を叩く時に見せる勝ち誇る様な笑顔も好きだった。

面白く無さそうに授業をボイコットし、屋上で何かを思う横顔が好きだった。

二人しか知らないあの場所で彼女の横にいられるあの時間の流れと、その時だけ素直になれる自分が好きだった。

たとえ鼓動を聞く事は叶わなくても、たとえ体温を感じる事は叶わなくても。

ただ彼女の一番近い距離で一緒に過ごすあの時間が何にも代え難くて。

そんな時間を手放すくらいならいっそ、この想いは奥深く沈めてしまえば良かった。




玖我なつきを憎めたらいい。

今すぐにでも憎んで嫌いになれたらいい。

自分を振ったあの人を、誰でも構わず優しさを振りまくあの人を
今すぐ嫌いになれたら降りしきる雨は簡単に止むのに。

けれどどうしたって天候は操れない。

自身の気持ちもまた。

神だけが操れると言うなら、今はただ泣く事しか出来なかった。



嗚咽で少し息苦しい。

肺を満たす湿った空気が余計に胸を痛めつける。

訪れる睡魔が何もかも奪っていってくれる事を、思考の曖昧な脳で強く願いながら
それに抗う事無く目を閉じた。

段々遠退く雨音。

自分の心音と解け合い、いつしか全く聞こえなくなった。