いつの間にか重なっていた彼女の唇は熱くて、身体もそして心さえも溶けてしまいそうだった。 「ん………嫌、じゃないの?」 僅かに離された瞬間に蓉子にそう問う。 悲しそうに歪められた彼女の眉間。 胸が締め付けられて息苦しかった。 「んっ…!」 言葉で言ったって解らないだろうと言わんばかりに、 強く彼女は唇を押し当ててくる。 それは確かにそうだった。 言葉などどうにだって取り繕う事が出来る。 それを嘘にする事も誤魔化す事も。 自分にとって彼女がしてくれたこの行動は解りやすくて嬉しかった。 流石蓉子。解ってる。 キスを仕掛けたのは自分からだった。 最初は挑発に乗って、というか。 彼女の余裕を崩してやりたかったから、そんな感じだった。 同情やなんかで好きだとか。 そういう優しさはいらない。 自分の弱さ、脆さをずっと側で見てきた蓉子だからこそ、同情やお節介で優しさを与えて欲しく無かった。 「…聖…信じて。私は…」 でもきっと、自分の愛、深さ故に、ただただ自分が傷つくのが怖かっただけかも知れない。
ずっと欲しくて。 でも手に入る事は無くて。 彼女を泣かせない為にと、彼女を傷つけない為にと。 自分の感情さえ時には偽り、敵になってまで守ってきた愛する人。 その相手に、今は偽りのない気持ちをぶつけられる。 …ぶつけていると言うのに。 「蓉子は…」 彼女の綺麗な蒼眼は、あからさまに疑いの色。 自分の愛が届かない。 「優しいから…」 ヤサシイ? ヤメテ! ふいに弾かれた様に反応する身体。 口付けと言うには余りにも痛々しいそれ。 「…んっ!」 どうして好きだと言ってくれたのに。 どうして好きだと伝えられたのに。 どうしてお互い想い合っているのに。 どうしてこんな冷たくて乱暴な口付けしか出来ないのか。 こんなものを望んだのでは無い。 「っ…ようこ!!」 突き放された肩。冷たいキスは微かに血の味がした。
彼女は泣いていた。 唇の端を僅かに紅く滲ませ、彼女は黙ったまま泣いていた。 しかし心はきっと悲鳴を上げて泣いている。 「…よう…こ…」 触れる度に傷つけた。 茨の棘が彼女の心を裂く。 「まだ解らない?」 それでも 「私は貴方を愛してるわ」 蓉子は 「愛してるの…」 こうやって自分に温もりを与えてくれる。 傷ついても尚。 茨の檻を開け放つ。 無理にこじ開けるのではなく、優しくかき分けて。 「…蓉子」 優しく抱き締めた肩や背中は、見た目以上に華奢で驚いた。 「蓉子」 こんなにか細い身体で。 いつもいつも今にも崩れてしまいそうな自分を支えてくれた。 「ごめんなさい。それからありがとう…」 「礼なんて…」 「私は蓉子が好き」 彼女の漆黒の瞳いっぱいに映る様に、じっとその瞳を見つめる。 「愛してるの」 恥ずかしそうにはにかんだ彼女の笑顔が愛しすぎて、思わず泣きそうになったのを寸でで堪えた。 「…聖」 彼女の唇に浮かぶ不似合いな朱を癒す様に 私はどこまでも優しく、それでもこの想いが伝わる事を強く祈りながら ゆっくりと口付けを落とした。 自分と居て、果たして彼女は幸せになれるのか。 無責任にも、また傷付けてしまうと思う。 けれどその傷は 自分の愛で癒してあげたいと 今はそう思うから。 -------------------------------------------------- やっと終わりました… でもイマイチ不完全燃焼…orz 時間が経ち過ぎてしまって、自分で前の話を覚えていないってのが痛い… 自分の中で、蓉子は悲恋なのです。 聖もそうですけど、何か蓉子の方が…