喜びも怒りも哀しみも楽しみも。

自分一人では絶対全てを感じる事など出来なくて。

だからこそ人と触れ合うと言う事は煩わしいし、そして幸せな事だと思う。




今宵は満月だろうか。

カーテンの隙間から差し込む月光は、いつになく明るい様に見える。

その光に照射された静留の肩は抜けそうな程、白い。




価値観の違い、好みの違い。

違う人間なのだから時にはぶつかり合う事もあるだろう。

それでもやはり私は人と関わり合いながら生きていきたい。




「…」




そう、強く思える様になったのだって私の側に人が居たからだ。

哀しみを呼んだのも人ならば、それを癒してくれたのもまた人で。

孤独だと、私は一人だと、そう思っていた時だって、本当は常に側には掛け替えの無い人達が居てくれて。


……間抜けな事に、それに気付いたのはつい最近だけれど。


私はいつだって一人じゃなかった。

形こそ違えど周りはいつも、私を支え励まし高めてくれた。




(…静留)




隣で、すやすやと眠る最愛の人。

淡い髪を指で梳くと、絡まる事なく布団へ滑り落ちた。

我儘な事に、静留が私を好きになってくれて本当に良かったと思う。


あの頃の自分にとってはあれが、悩みに悩んだ末の答えだった。

だからあの頃の自分を否定したり後悔したりするつもりは無い。

でもだからこそ、静留には感謝しているのだ。




(…ほんと、我儘だ)




どんなに冷たくあしらおうが、どんなに酷い言葉をぶつけようが、静留は私の側に居てくれた。

今思えば、きっと相当傷付ける様な事も言っただろう。

しかしそんな様子を微塵も感じさせないで、静留はいつもいつも笑っていてくれた。




「…」




私の為にいらぬ傷を負い、はたまた罪さえ一人で背負い込んで。

それでも心配をかけまいと、静留は笑っていた。

心で泣いて、誰にも縋らないで、いつもいつも笑っていたんだ。




「…」




剥き出しの肩に布団を掛け直し、その上からそっと抱き締めた。

こんなにも華奢な身体で、私が背負わなければならない罪まで全て一人で引き受けて、
その上罰さえ一人で受けようとする。




「…馬鹿だな」




静留が、か。…それとも私が、か。


微睡みの中、思考が少しずつ途絶え始める。

目を瞑り外界を遮断すると、時を刻む音と静留の寝息だけが私の全てとなった。




「…」




壊れ物を扱う様に、彼女の頬に口付ける。

私がお前にしてやれる事など微々たるものかも知れない。

それでもいつか、私がお前から貰ったものを少しだけでも返せたら。

その時はお前ももう我慢なんかしなくて済むのだろうか…。




「…」




強く瞑った瞳から一筋の涙が零れた。

それはそのまま枕に染み込み、一点の染みを作る。

深い夜はまだ始まったばかり。








なつきが頬に口付けてくれた時に目が覚めた。 薄く目を開けると何故だか彼女はきつく目をつぶって泣いていた。 どうしたのかと問う事も出来たが、気付かないフリをした。 きっと考えてる事は自分と一緒だから。 どうしてそうも純粋で優しいのか。 貴方に罪は無いと、一体どれだけ諭せば解って貰える? どうしたら貴方を取り巻く罪悪感から解放してあげられる? 確かになつきの事を思ってした事だけれど、あれは自分の意志で犯した罪。 貴方を苦しめるあらゆる物を排除したいという、自分の欲望。 貴方を自分のものにしたいという欲望。 貴方に罪は無い。 (…) 抱き締めてくれている腕は微かに震えていた。 こんなに誰かを欲した事など今までの人生、思い返してみても全く無かった。 なつきの言葉、態度。 そんな事一つ一つに一喜一憂する自分に呆れもしたが、少し嬉しくもあった。 ……きっとこの子は自分を救ってくれる、と。 人と関わりを持つ事に、特別抵抗も無ければ喜びも無かった。 必要最低限の会話さえ通じ合えれば別にそれで良かった。 ……そう、なつきと出会うまでは。 (…なつき) 暫らくすると、耳元で規則正しい呼吸が聞こえて来た。 (…) 濡れた目尻を小指でそっと撫で、腕を彼女の背に回す。 愛おしい彼女を優しく抱き締め、おやすみ、とぽつり呟いて目を瞑った。 次に目覚めた時は笑顔で会えると、そう願って。
-------------------------------------------------- 言い訳。 リハビリ作、第1弾。 少しでも書かないでいると感覚を忘れてしまうんですね… どうやって書いていたのか覚えてない… 本当は“人と人との関わりって素敵”的のssを書きたかったんですけど 出来上がった物は程遠い…