「ねぇねぇ玖我先輩って格好いいよね」
「俺、玖我さんに告ってみようかな」
…またなの?
最近やたらと耳にするその手の話。
―――ふん。あいつってそんなにもてる訳?
みんな趣味悪いったらありゃしない。
お互い様
「奈緒」
毎週金曜日は一緒にお昼を摂ると約束してるので
今日も奈緒は、一足先に学食に来て、なつきを待っていた。
大体奈緒が先に居て、なつきを待っているパターンがお決まりだ。
「遅い」
「すまん。途中で知らない奴に引き止められてな」
「…ふーん」
なつきの台詞にふと、先程教室で耳にした台詞が重なる。
なつきに声をかけたのはあそこにいた誰かか、はたまた全く違う誰かか。
予想もつかない事がまた頭にくる。
そんな奈緒の心中に気付く気配もなく、なつきは奈緒の向かいの席に腰を下ろした。
「全く…人が急いでいると言うのに……って痛たっ!?」
なつきの話が終わるを待たず、奈緒はおもむろに腕を上げると、
軽くため息をつきながらパンの袋を開けていたなつきの頬をつねった。
「ちょっ!お前いきなり何をする!」
「何かつねりたかったの。悪い?」
「はぁ?悪いに決まってるだろ!…って…何だ…?お前何か怒ってるのか?」
「知らない」
―――自分でも子供じみてるって思う。
なつきは何も悪く無い。
そんな事重々承知してるわよ。
なつきの人気が急上昇しだしたのはつい最近の事。
でも多分、前々から気にしていた奴らはごまんといたと思う。
…顔だけはいいから。
周りの奴らの話だと、前までのなつきは恐くて近付きがたかったらしい。
恐いかどうかは知らないけど、確かに無愛想極まりなかったわね、あいつ。
「…お」
それが蝕の祭りが終わってからの彼女は、昔からは考えられない程穏やかになったから。
だから今まで近付きたくても近付けなかった奴らが…
「…お…奈緒!」
「え?」
「え?じゃない…ったく…今日のお前おかしいぞ?どうしたんだ」
「…」
昼食を済ませ、二人で廊下を歩いていたのだが、
何やら思案しているうちに奈緒の歩くペースが早まってしまっていたらしい。
奈緒が我に返ると、なつきとの距離は随分と開いてしまっていた。
「…ごめん」
「ったく…一体どうしたっていうんだ」
「…別に」
「…さっきは腹立つ思いしたし、お前は機嫌悪いし何だか今日は散々だな…」
「腹立つって?」
奈緒は俯いていた顔を上げ、なつきの表情を伺いながらそう聞くと、
彼女は何やら不機嫌な様子で言った。
「あー…さっき知らない奴に話し掛けられたと言っただろう?」
「うん」
―――あんたに好意を寄せてる誰かに、でしょ?
「…」
「…」
「…」
「…」
「………はぁ〜…思い出しただけで頭にくる」
「ったく、だから何なのよ!」
いつまで経っても本題に入らないなつきに、少々苛立ちながら奈緒は先をせがんだ。
「あー…だから…」
何やら少し照れた様子で頭をかくなつき。
「だから!?」
「………結城さんって付き合ってる人とかいるんですかって…」
「…………はぁ?」
思いもよらぬ台詞に奈緒は素っ頓狂な声をあげた。
「誰だか知らないが…多分お前と同い年か。
…玖我さんは結城さんと仲良いから何か知らないかって。全く…」
腹が立つ…とぶつぶつ文句を言いながら、
なつきは茫然と立ち尽くす奈緒を置いて廊下を歩きだす。
「…何でむかついたの?」
奈緒の問い掛けにぴくりと肩を震わせてなつきは立ち止まると、彼女に背を向けたまま
「…奈緒は……私のだ。誰にもやらん」
独り言の様に呟いて再び歩を進めだした。
「……ばっかじゃないの」
眉間に皺を寄せ悪態をつく奈緒だったが、
それも顔がこれでもかと言うくらい紅く染まっている為、威力を成さない。
「あんたさぁ、自分ももててんの知ってんの?」
「知らん」
「あたしのクラスでも結構いるのよ。玖我先輩格好いぃ〜って言ってる奴」
「ふぅん」
「ふぅんてあんた…あたしだってねぇ」
「知らないものは知らない。私が好きなのはお前なんだ。
だから他の誰が私に好意を寄せようが関係ない」
決して奈緒の方は向かず、進行方向を向いたままなつきは言った。
「………耳、真っ赤だけど」
「うるさい」
つられて真っ赤に染まる奈緒の顔をなつきは知らない。
「玖我先輩って本当に格好いいの!この前もね…」
教室で再び聞こえて来た会話。
それを先程と同じ様に頬杖をつきながら聞く奈緒。
だがその表情は、先程とは打って変わってとても穏やかなものだった。
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言い訳。
何て言いますか…なつきと奈緒でss書くと
どうもシチュが固まりがちで駄目ですね。
精進します。