自転車




「…なるほど。」

「あんたさ…ホントに何にも知らないのね。」

「う、うるさい!しょうがないだろ、こんなもの読んだことも無いんだから。」

風華の高等部の屋上では、紅い髪と紺の髪が仲良く穏やかな春風に撫でられている。
本人達は雑誌を捲りながらあることについて話し合っているようだが、花を咲かせていると言うより、
けなし合っているように見える。

「藤乃はよく着物とか着るでしょ?だったらここじゃなくてこっちじゃない?」

紅い髪―奈緒は雑誌を相手に見せているため逆さからペラペラ捲る。
紺の髪―なつきはその指先を黙って見つめる。
そしてその指が動きを止めた。

「あぁ、確かにそうだな。」

そこは様々なデザインの髪留めが紙一面に溢れていた。

二人が見ている雑誌は、なつきが滅多に手に取ることのないアクセサリー中心のもの。
どうして今それを見ているのかと言うと・・・。

「って言うかさぁ、雑誌なんかで探さないで直接店行って探せば良いじゃん。」

「黙れ。何度も同じことを言わせるな。」

「はいはい、恥ずかしいんだっけ?アホらし。」

奈緒は鼻で笑った。

「このっ!人が下手に出てるからって調子に乗るな!」

「本当の事でしょうが。」

「うぐ・・・。」

なつきは何も言い返せず、押し黙る。


「で、どれにすんの?藤乃の好きそうなもん見つかった?」

「ん〜・・・。」

なつきは雑誌と睨めっこしながら低く唸る。
そしてしばらくそれを続けていると、パッと目に力が宿った。

「よし、決めた。」

たった一言だけ口にすると、なつきはすっくと立ち上がって自分のカバンの置き場へ歩いていった。
奈緒はその動作を目で追う。


(書き込むのね。)


そう思った奈緒は、手に持ったレモンティーのストローを口に入れながら雑誌を捲り申込用紙を抜き取る。
なつきはカバンの中をガサゴソ漁って、目当ての物を手にし戻ってきた。

「申込用紙は?」

案の定、奈緒の予想は当たった。

「ん。」

ストローをくわえたままだったので、それだけ言って紙を差し出す。
ありがとう、と素直に礼を言われて、何となく気持ちが浮いた。

なつきはまた座り込んで、手にしていた筆箱からシャーペンを取り出す。
この前見た時より少し汚れた様子の筆箱。


(ちゃんと勉強してんだ。)


奈緒は筆箱に視線を送りながら、ボーッとそんなことを考えていた。


(はっ!!)


やがてそんな自分に違和感を覚えて、プルプル頭を振る。
ついさっきまで考えていた事を払いのけるように。

「どうした奈緒?虫でも顔に付いたか?」

なつきは必要事項の欄を全て書き終え、カバンに筆箱を入れているところだった。

「なっ、何でも無いっつうの!」

「??」

なつきが?を頭からポンポン出しているのを奈緒は無視するように立ち上がって、
柵に寄り掛かり外を見下ろした。


「あ。」


今は放課後。
確かに居てもおかしくない。だが、ここで目にするのはほとんど無い。
そんな人物が奈緒の目に飛び込んできた。

「玖我。」

奈緒はその人物を見ながら声を掛ける。

「何だ?」

「飼い主がお迎えに来てるわよ。」

「はぁ??」

なつきは眉間に皺を寄せて奈緒の背中を見やる。
奈緒の言葉は意味的に合っているのだが、本人はサッパリ理解出来ず、
立ち上がって奈緒と同じように外に視線を巡らす。

「あっ!!」

なつきがその人物を確認し、やっと奈緒の発した言葉を理解した。
すると同時に羞恥と小さな怒りが込み上げ、隣の奈緒に噛みつこうとした。

「奈緒、貴様!!」

が、

「あれ?」

すぐ隣に居たはずの紅い髪の少女の姿がない。

「ばぁ〜い♪」

奈緒はカバンを肩に提げて、片手を振りながら階段を軽い足取りで下りていた。

「なっ!?」

(何て素早い奴なんだ!!)

なつきはまんまと逃げられた奈緒の背中を見送りながら、先程の雑誌と申込用紙を拾い上げた。

(まぁ、助かったし。)

そう思い直して、なつきはもう一度外に目をやる。
視線の先の人物は、自転車から下りて駐輪場に入っていった。
あまり無い待遇に、自然と口元が緩んだ。



「静留!」

なつきは息を切らして駐輪場に駆け込んだ。

「あ、なつき。用は終わったん?」

静留は満面の笑みでなつきを迎える。
内心、『わんころみたいやわv』と思っているなんて本人は気付かないだろう。

「そ、その・・・ありがとう。」

今日はバイクを修理に出しているため、歩きでの登校だった。
それを知っていた静留は、大学が早々と終わったので自転車で迎えに行くとメールしておいた。

「ええんよ。こんなこと滅多にあらへんから、なんや楽しくて。」

「そ、そっか。」

静留の子供のようにはしゃぐ様子に、思わず胸が高鳴った。


(か、可愛い・・・。)


なつきは頬が綻びそうになるのを必死で堪えて、静留の自転車の後ろに回る。

「あ、なつき。荷物。」

「あぁ、頼む。」

なつきは静留にカバンを手渡し、受け取った静留は前のカゴに入れる。
それを確認したなつきは、静留が自転車に乗るのを待った。

「はい、どうぞ。」

静留は左足を地に着き、右足はペダルを踏んでいた。
なつきは「乗るぞ」と一声掛けて後輪のマッドガード(泥除け)の上に設けられた座席に、
背中合わせになるように座る。

「なつき、それやと危ないやか、せめて横座りにしぃひん?」

静留はなつきの座り方が不安で仕方なかった。
だがなつきは静留の腰に手を回すのが恥ずかしく、こんな座り方を選んだ。

「ぅ・・・だめか?」

「あ・か・ん。心配で安心して漕げません。」


「・・・じゃあ。」

そう言ってなつきは静留の肩に触れ、座席に足をついて立ち上がった。

「た、立つん!?」

静留はてっきり横座りするかと思っていたのだが、予想外の行動に声が上ずってしまった。

「良いだろこれで。帰り道はそんなに危ないとこ無いし、交番も無いから平気だ。」

「交番もって・・・あんた。」

静留はため息一つこぼして、仕方ない、と諦めた。
だが、両肩に感じるなつきの体温と軽い重さに嬉しさが込み上げる。


初めての感覚。
それ故、新鮮でとても心地良かった。


「静留?」

なかなか動きを見せない静留に不思議に思ったなつきは、どうしたのかと問いかけた。

「あ、堪忍な。ちょぉ嬉しくて。」

「嬉しい?そうか?重くて大変だろ?」

「なつきみたいに細っこいんやったら、乗せててもほんまに乗っとるんか疑いたなります。」

「・・・お前より重いんだが。」

「そんなに差ぁ無いよってwほな、行きますぇ。」

静留は右足に力を入れて、ゆっくり車体を進める。
なつきの体が後ろに引っ張られて、その条件反射で静留の肩を少し強めに握った。

静留は肩に感じるそれに、小さく笑ってしまった。


面白くて楽しくて、可愛くて嬉しくて、初めてで。


(また、お迎えしたいわぁ。)


なつきは少し照れた様子で、静留の肩を掴んでいた。
静留は幸せそうに自転車を走らせ、桜の舞う風をきった。




あとがき
日常・・・な感じになっただろうか?ww
キャラをあえて指定してこなかったから、葱姉妹3人とも出させて頂きました(笑)
気に入ってくれたらこれ幸い。
あと、長ったらしくて堪忍な♪


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完璧日常w素敵です。
こんな話が自分も書きたいんですよ!!
…が…(苦笑

あっきゅうさん、本当に有り難う御座いました!!!


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