『逢いたい』 後編



「えっ!?なつ・・き??」

(ふふ、驚いてる驚いてる♪)
両手からでも静留の慌てた様子がハッキリ伝わる。
目蓋を閉じているのに、目の動きは忙しくくすぐったかった。

「当た・・・」
「何しとるんや!!?」
けたたましい怒鳴り声になつきの言葉は打ち消された。

「「え!?」」
なつきと静留の声が仲良く重なる。
突如として響いた声の主は静留の父だった。静留はただ驚き、なつきはその声に凄まじい怒りのオーラを感じて心臓が一瞬止まってしまったかのように思えた。

「なっ、え?!」
なつきは条件反射で両手を降参のポーズと同じように挙げた。
だがその対処も空しく、なつきの首根っこにほうきの柄が見事にくい込んだ。

「ぐはっ・・・。」
余りの衝撃に息が詰まり、次の瞬間には目の前が真っ白になった。

なつきっ!!なつき!なつき!な・・・・
意識が遠のくに連れて静留が必死で自分を呼ぶ声も聞き取れなくなっていった。

「し・・・・ずる・・ぅ。」


〜*〜
(・・・。)

(・・・・・・?)

(・・・・しず・・・る?)

頬に生温い液体が落ちてきて目が覚めた。
ぼやける視界には、逢いたくて逢いたくて仕方が無かった静留が映った。
もっとハッキリ見たいと何度が瞬きを繰り返す。

「し、静留?・・・泣いて、るのか?」
静留の瞳は涙でいつもより濃い色をしていた。

静留は頬に涙の痕を残したまま、柔らかく微笑んだ。
「良かった・・・。なつき、ほんまにほんまに堪忍・・・。」
静留は安堵のため息を漏らすと、自分の額をなつきのそれにコツンと当てた。

(静留って泣き顔も綺麗だよなぁ。)

「?なつき?」
なつきが静留に見惚れているとは知らず、未だ虚ろな様子に静留の小さくなったはずの不安がまた膨らんでしまった。
なつきは静留の表情の変化に気付いて、恥ずかしくなったり嬉しくなったり、申し訳なくなった。

「静留、ごめん。もう大丈夫だから。その・・・ありがとう。」
なつきはそれら自分の感情を精一杯言葉にした。

「おおきに。せやけど、謝らなあかんのはこっちや。お父はんの早とちりであんな・・・。」
なつきはその言葉に気を失う前の記憶が蘇った。
学校をさぼってまでやって来て、待ち望んだ再会があんなことになってしまうなんて。なんだか情けなくて、なつきの笑顔は引きつった。


それからなつきは様子見のためまた眠りについた。次に目が覚めた時、部屋は暗かった。
改めて周りを確認すると、今寝ている場所はどうやら静留の部屋のようで
暗い闇に包まれた空間から、控えめな灯りを帯びた電球が見えた。
その傍には静留が足を崩した状態で座っていて、なにか書き取っているようだった。

なつきは静留の背中をしばらく眺めていた。
振り向いてはくれないだろうか、こんな暗がりでも自分が起きてることに気付いて、いつものゆったりとした足取りで近付いてきて欲しかった。そして・・・

(静留の声が・・・聴きたい。)

なつきは気付かれないようにそっと布団から抜け出した。
そして気配を出来るだけ消して、静留に一歩一歩、慎重に歩み寄った。


〜*〜
静留は大学の課題をレポートにまとめていた。
泣き明かしたせいでもあるのか、今日はやけに眠気がひどかった。
ボーッとしながらひたすらシャーペンを走らせる。

すると後ろから細い腕が腰に巻き付いてきた。
「!なつき?」
いつの間に起きていたのか。いや、ここまで歩いて来ていたのか。
突然のことに驚いたが、なつきの体調が心配だった。

「なつき・・?起きても平気なん?まだ寝とらんと・・。」
「・・・静留。」

ドキンッ

なつきの低く掠れた声に静留は思わず胸が高鳴った。

「な、なつき・・?」
久し振りに直に聞くなつきの声。嬉しくて声音だけで全身が少しずつゆっくりと、確実に温まっていく。

「静留・・・。逢いたかった。・・・逢いたかったんだ。」
「な、なつ・・・。」
思わぬ言葉に今度は胸が詰まった。逢いたいと思っていたのは、自分だけだと思っていた。

「うち、嬉しい・・・。なつきも・・・うちに逢いたい思うてたん?」
後ろにぴったりとくっついているなつきに振り向こうとしたら、なつきの唇が首筋に吸い付いてきた。
「はぁっ!ん・・なつき・・。」
ご無沙汰となった刺激に背中がいつも以上にゾクゾクした。

「静留・・・もっと、声聴かせてくれ。」
静留はほんの少し驚いて言葉を失ったが、すぐに立ち直った。
「なつき・・・うちもなつきの声、聴きたい。」
腹の辺りで組まれた両手にそっと触れる。

「静留、しばらくこうしていたいんだ・・・。だめか?」
「構へんぇ。うちも同じやし・・・・せやけど。」
「ん?」
なつきは静留の右肩に顎を乗せて、自分の左手の上にある静留のそれを、右手で包むように重ねた。


「なつき・・・あんな、うち・・・もうなつきが傍におらんと、あかんのよ。」
「うん。」
なつきの顔は幸せそうに綻んで、抱きつく腕に自然と力が加わった。

「想いを伝えて・・・受け入れてもろて。 それからほぼ毎日、ずっとなつきと一緒におって・・・・。
 ずっとなつきと触れ合って・・・。いつだって、なつきを感じることが出来て・・・。」
「静留・・・。」
「ほんのちょぉ前のうちには、そんなことが現実になるやなんて微塵も思うてなかったんよ。でも今は・・・。」
語尾が少し震えていた。なつきはそれがどうしてかすぐに解った。

「静留・・・もう、我慢する必要なんて無い。そんなことするな。・・・泣きたい時は、好きなだけ泣け。
 わたしがいくらでも拭い取ってやるから。」
「な・・っ・・ぅ・・なつ・・きっ・・ぃ。」
静留の瞳から大粒の涙が零れて、なつきの右手を濡らした。

なつきは身を離して、静留に体ごと振り向かせる。それからすぐ背中に両手を回し、静留の顔を胸元に引き寄せた。
「静留・・・。私もお前の傍にずっと、ずっと一緒にいたい。お前と出来る限り同じ時を刻みたい。
 2、3日顔を見られない間、凄く寂しくて物足りなくて・・・こんなに一人でいるのが辛いなんて、思わなかった。」
「ぅ、っく・・なつき・・うちかて・・。」
嗚咽が邪魔して上手く喋れない静留の背中を、ポンポン優しく叩いてあげた。

「今回で思い知らされたよ。もうお前無しじゃ生きていけそうにないってことを・・・。」
なつきの背に回った静留の両手が、服を強く握って皺を立てた。
なつきはそれに気付いて、自分も強く抱きしめ返す。そうすることで静留を安心させることが出来るような気がした。

「静留・・・好きだ、大好きだ。」
「なつき・・・。」
「私はいつだってお前の傍にいるよ。これからもずっと、何があっても。」


静留を満たすことが出来るのは、なつきの存在だけ。
なつきがいなければ・・・きっとあんな素晴らしい笑顔を見せることなど出来ないだろう。

なつきの言葉を受けた静留の表情は、まさにそれそのものだった。


END


あとがき
っというか言い訳ですねw
後編もダラダラ長ったらしくてスミマセン。
しかも静留さん、また泣いてますね(苦笑)イラストだけでなくSSでも泣かしてばっか(´▽`*)ハハ
今回の目標はなぜか『チュー無しで甘甘!!』(´∀`;)ぇ?
もちろんなつきのあれはカウントに入ってませんよww( ´∀`)'`,、'`,、'`,、'`,、
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いや〜…こんな超大作を頂けて感無量ですわww
ご要望通りの甘いss、本当に有り難う御座いました!


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